猫の耳の病気

愛猫に耳をよく掻く、頭をよく振る、耳を触ると嫌がるなどの行動はみられませんか?それは、耳の病気を伝えるサインです。

この記事では、愛猫がかかりやすい猫の耳の病気から、特に多い外耳炎・中耳炎・内耳炎・耳血腫・耳疥癬(みみかいせん)・耳腫瘍についてご案内します。気になる行動や症状がみられたら、すぐに動物病院へ行きましょう。飼い主さまが自宅でできる予防法も紹介します。

 

耳が臭い・耳垢が増えた・耳介に脱毛や自傷痕がある・耳をよく掻くなどは、猫の耳の病気にみられるサインです。そこで、猫の耳の病気にみられる共通の症状、治療法、治療費、予防法などをわかりやすく解説します。

 

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目次

猫の耳は構造的にトラブルが起きやすい?

猫の耳がトラブルを引き起こす要因のひとつに、耳道の形状が挙げられます。耳道とは、外耳孔(耳の穴)から鼓膜へ伸びている音の通路です。顔の横に耳がある人の耳道は直線的ですが、頭の上に耳がある猫の耳道はL字型をしています。

 

L字の曲がり付近は、汚れが溜まりやすい上に通気性が悪く、耳ダニ、細菌、真菌(カビ)が増殖しやすい環境です。猫の耳は構造的にトラブルを引き起こしやすいのですが、猫は自分で耳のケアができません。猫の耳の病気を予防するには、飼い主さまの手助けが必要です。

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猫の耳で多い病気と症状について

猫の耳で多い病気として挙げられる、外耳炎、中耳炎、内耳炎、耳血腫、耳疥癬(みみかいせん)、耳の腫瘍の特徴や症状について解説します。特に耳に発生する悪性腫瘍は緊急性が高いため、症状がみられたら動物病院で診療を受けてください。

 

外耳炎

外耳炎とは、耳道や耳介など、鼓膜から外側の部分に炎症が引き起こされた状態を指します。鼓膜から外側で発症した炎症全般を差すため、病名というよりも症状のひとつです。外耳炎の原因はさまざまであり、原因が特定されている場合は、腫瘍耳疥癬(みみかいせん)などの正式な病名で呼ばれます。外耳に炎症が生じた場合にみられる共通の症状は、以下の通りです。

・よく頭をふる

・よく耳元をかく

・耳元をかくため、耳介の脱毛および自傷の痕がみられる

・耳垢が多い

・耳が臭い

・炎症による痛みがある場合は、耳を触ると嫌がる

L字型に折れ曲がっている猫の耳道は、細菌や真菌などが増殖しやすいため、特に春から夏の間は外耳炎に注意しましょう。

 

中耳炎

中耳炎とは、耳の奥にある中耳で炎症が生じた状態を指します。中耳とは、鼓膜、鼓室、耳小骨、耳管がある部分です。中耳は顔面神経や自律神経と近いため、中耳炎がこれらの神経に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

しかし、中耳炎の病原体が、必ずしも耳の中で発生するわけではありません。鼓室と外は耳管によって通じているため、口腔内の病原体が耳管から鼓室へ侵入するケースもあります。また、中耳炎が腫瘍ポリープに起因する場合は、早めの治療が必要です。以下の症状がみられたら、中耳炎の可能性があります。

・外耳炎の併発

・頭を振る

・頭が傾く

・やたらと耳に触る

・耳や唇の片側に麻痺がみられる

 

内耳炎

内耳炎とは、耳の奥に位置する内耳に炎症が生じた状態を指します。内耳は聴覚を司る器官の蝸牛(かぎゅう)と、バランス感覚を司る三半規管から成っており、音と体のバランス情報を脳へ伝える大切な器官です。蝸牛の蝸牛神経が音を脳へ伝え、前庭神経が体のバランス情報を脳へ伝えます。

 

内耳炎の原因として挙げられるのは、感染症、中耳炎からの波及、内耳の腫瘍やポリープなどです。愛猫に以下の症状がみられる場合は、内耳炎の可能性があります。動物病院で獣医師からの治療を受けましょう。

・蝸牛神経の炎症による難聴

・前庭神経の炎症による、ふらつき、旋回運動、嘔吐、頭が傾く、眼球が小刻みに震える(眼振)

 

耳血腫

耳血腫とは、耳介が腫れる症状を指します。耳介とは、耳の頭から出ている部分です。耳血腫は、耳介に血液や漿液(しょうえき)がたまって引き起こされます。漿液とは、サラサラした透明な分泌液です。

 

耳血腫の原因として、打撲による内出血、外耳炎に起因する頭の振りすぎ、血液の異常、病原体の侵入などが挙げられます。以下で耳血腫の症状をご案内するので、当てはまるようなら動物病院で診察を受けましょう。

・耳介が腫れている

・耳を触ると嫌がる

・片方だけ耳が垂れ下がっている

 

耳疥癬(みみかいせん)

耳疥癬(みみかいせん)とは、耳の中にダニが寄生した状態を指し、耳ダニ症とも言います。猫の耳の中に寄生するダニは、体調0.3~0.5mmのミミヒゼンダニです。耳疥癬を引き起こすミミヒゼンダニは耳の中に寄生して、耳垢や皮膚のかさぶた、リンパ液や血液などを栄養源にします。

 

ミミヒゼンダニを放置すると、耳の中に耳垢とダニの排泄物が溜まるため不衛生です。また、ミミヒゼンダニによって、かゆみを引き起こします。耳疥癬の症状をご案内するので、愛猫に症状がみられないかチェックしてみてください。

・耳垢がよく溜まる

・よく耳をかく

・耳が臭い

・耳が黒ずんでいる

・よく頭を振る

 

腫瘍

耳に発生する腫瘍とは、耳介と外耳道(耳の穴から鼓膜まで)にできものができた状態を指します。腫瘍は良性と悪性に分類されます。

耳介にできるものと耳道にできるものに大きく分類でき、耳介にできるものは扁平上皮癌や肥満細胞腫であることが多く、耳道にできるものは耳垢腺腫、耳垢腺癌、炎症性ポリープなどであることが多いのですが、見た目だけでは判別はできません。なかには命にかかわる腫瘍の場合がありますので、腫瘍の種類を確認した方が良いでしょう。

 

愛猫に以下の症状がみられたら、獣医師の診察、治療、自宅ケアのアドバイスを受けるのが無難です。

・よく頭を振る

・耳を気にして触る

・耳にイボのような盛り上がりがある

・腫瘍から出血している

耳のトラブルが起こりやすい猫種は?

耳のトラブルが起こりやすいアメリカンカール

耳のトラブルが多いのは、垂れ耳の猫種とカール耳の猫種です。垂れ耳の猫種にはスコティッシュフォールドやスコマンチ、カール耳の猫種にはアメリカンカール、ハイランダー、キンカローが挙げられます。

 

特にアメリカンカールは、耳の病気に要注意の猫種です。アメリカンカールの耳は、軟骨が厚く外耳道が狭い構造のため、ほかの猫種よりも外耳炎を発症しやすいといわれています。猫の外耳炎は、中耳炎や内耳炎の引き金です。日頃から耳の状態や行動を観察して、おかしな症状がみられたら獣医師に相談しましょう。

動物病院に連れて行くべき症状とは?

以下で案内しているのは、猫の代表的な耳のトラブルにみられる共通の症状です。

・よく頭を振る

・頭が傾いている

・やたらと耳をかく、または触る

・耳や唇の片側に麻痺がみられる

さらに、耳介の脱毛や自傷痕、耳垢が多い、耳が臭いなどの症状がある場合は、外耳炎の疑いが強まります。外耳炎を放置すると中耳炎や内耳炎に進展しかねないため、動物病院で診療を受けるのが無難です。

 

また、耳の腫れ、頭が傾いている、頭をよくふる、耳や唇の麻痺、ふらつき、くるくる回るなどの症状が加わっている場合は、中耳炎、内耳炎、耳血腫、耳疥癬、耳腫瘍などが疑われます。至急、獣医師の診断を受けましょう。

猫の耳の病気にはどんな治療法があるの?

猫の耳の病気にはどのような治療が施されるのか、治療は痛くないか、愛猫が不安がらないかなど、飼い主さまとしては心配も多いことでしょう。ここからは、猫の耳の病気で施される治療方法を病気ごとにご案内します。

 

外耳炎の治療方法

外耳炎はさまざまな要因が重なって発症するため、原因が特定されるまでは投薬治療が行われます。投薬治療は、正確な診断結果が出るまでの一時的なものです。正確な診断結果が出ると、病気の改善に向けて本格的な治療に移行します。

・耳垢が溜まっている場合は、洗浄液による耳垢の溶解と生理食塩水による耳の洗浄

・病原体が特定された場合は、抗生物質や抗菌薬による局所治療を行う

・耳ダニの寄生が確認された場合は、殺ダニ薬を投与する

・局所治療を行えない場合は、投薬による全身治療を行う

 

中耳炎の治療方法

中耳炎の主な治療方法は、外耳炎の治療です。外耳炎の悪化によって中耳炎を発症している場合は、先に外耳炎の治療を行います。ただし、鼓膜に異常が見つかった場合は、耳の洗浄は行えませんので投薬による治療を行うのが一般的です。

 

外耳道で繁殖した細菌や真菌が中耳炎を引き起こしている場合は、抗菌薬や抗真菌薬による殺菌をします。

 

内耳炎の治療方法

内耳炎が外耳炎や中耳炎に起因する場合は、元となった病気の治療を優先的に行うのが一般的です。炎症の原因である病原体に合わせて、抗菌薬、抗真菌薬などによる治療を施します。ただし、耳に腫瘍やポリープがある場合は、外科手術で取り除く処置が必要です。

 

耳血腫の治療方法

耳血腫の治療は、血腫の大きさによって異なります。血腫が小さいなら、注射で溜まっている液体を抜き取るだけで済むため時間がかかりません。しかし、大きな血腫には外科手術が必要になることがあります。患部を切開し、血腫の液体を抜き取ってから縫合します。外科手術といっても大掛かりな手術ではありません。

 

耳血腫の直接的な治療が済むと、二次感染を防ぐために抗生物質を投与します。また、猫が患部を掻きむしらないように、エリザベスカラーを装着するのが一般的な対応です。

 

耳疥癬の治療方法

耳介線はミミヒゼンダニの寄生によって引き起こされる耳の病気です。治療方法として、局所治療、駆除薬の投与、耳の手入れを行います。耳疥癬の場合は、基本的に薬を使用した治療方法を用いるため時間がかかりません。

 

局所治療とは、洗浄剤による耳垢の除去です。耳垢を除去してから、耳道内のミミダニの数を減らしていきます。駆除薬の投与とは、ミミヒゼンダニを効果的に駆除する薬の投与です。駆除薬を首周りに垂らすだけの簡単な治療ですが、ミミヒゼンダニを駆除する効果が得られます。

 

腫瘍の治療方法

耳に発生する腫瘍には良性と悪性があり、主な治療方法に対症療法と腫瘍の切除が挙げられます。腫瘍が良性の場合は、症状の進行を抑える治療が行われます。ただし、良性の腫瘍であっても、中耳炎や内耳炎の併発を防いだり、出血が起こるなどで生活の質が落ちてしまうことを防いだりする目的で外科手術を施すケースもあります。

 

悪性の腫瘍は生命を危険に晒すため、外科手術による腫瘍の切除が必要です。腫瘍の場所によってアプローチの方法が変わり、水平耳道に腫瘍がある場合は複合的な手術を行います。難易度の高い手術を施すため、熟練の獣医師がいる動物病院で診療を受けるのが無難です。

猫の耳の病気でかかる一般的な治療費

診察・治療内容 治療費
病気:外耳炎
診察:耳鏡検査
治療:耳垢の除去・点耳薬の投与または内服薬による治療
軽度の場合は1週間くらいで良化
2,500円~3,500円
病気:中耳炎・内耳炎
診察:耳垢検査/画像検査/細菌培養・感受性検査
治療(内科):抗生剤・抗真菌剤・抗炎症剤などの内服/耳内洗浄/皮下注射
治療(外科):鼓膜切開・外耳道や内耳の手術
治療(重度):入院処置
5日~2週間ほどで良化
約1万7千円
病名:耳血腫
診察:耳介の視診と触診
治療(軽度):数日ごとの通院で耳に溜まった液体を抜く/ステロイド剤の注入/抗生剤の内服
治療(重度):耳介の切開と縫合
通院は1回~3回
通院:1回あたり約3,900円
手術:2万5千円~6万円
病名:耳疥癬(みみかいせん)
診察:耳垢検査
治療:ミミヒゼンダニ駆除剤の滴下
駆除から1カ月程度は定期的な耳垢除去
通院:1回あたり約3,000円

動物医療は自由診療のため、ペット保険に加入していなければ医療費は全額自己負担となります。

高額な治療費に不安がある方は、ペット保険への加入を検討しましょう。

耳の病気の予防法について

猫の耳掃除

耳を清潔に保つのが、病気の予防につながります。耳を掃除する際は、水道水を使用せず、必ず専用の洗浄液を使用してください。

 

屋外に出る猫は、ミミヒゼンダニに寄生される機会が多いため、耳疥癬を患う可能性が高くなります。耳疥癬の予防薬を定期的に使用し、ミミヒゼンダニの寄生を防ぐのが効果的です。予防薬には飲み薬タイプと滴下タイプがあるので、愛猫に使いやすいタイプを選びましょう。

猫の耳のNGなケア方法

・水道水やお湯で耳掃除をしない

・乾いた布で耳掃除をするのは厳禁

・耳掃除は力をいれずに行う

・耳の見えにくい部位を無理に掃除しない

猫の耳を掃除するのは病気の予防につながりますが、誤った方法では逆効果です。猫の耳はとてもデリケートなため、正しいケアを行いましょう。水道水やお湯は、外耳炎の原因になります。そのため、専用の洗浄液を使用するのが大切なポイントです。

 

また、乾いた布での掃除は、刺激が強く耳を傷つけやすいため厳禁です。コットンや専用の道具を使用し、力を抜いてやさしくケアしてください。また、見えにくい奥の方を無理に掃除するのも危険です。耳の奥のケアは、動物病院でしてもらいましょう。

まとめ│猫の耳を清潔に保ち病気を予防しよう!

この記事では、猫の耳の病気について以下の内容を解説しました。

・猫の耳は構造的にトラブルが起きやすい

・猫の耳で多い病気と症状

・病気に行くべき症状

・猫の耳の病気の治療法

・猫の耳の病気の予防法とNGなケア

愛猫がよく耳をかく、耳を触ると嫌がる、耳が臭いなどの症状がみられた場合は、耳のトラブルを引き起こしている可能性があります。猫の耳の奥にある内耳は、顔面神経や聴神経とも近いため、飼い主さまにとって予想外の症状を引き起こしかねません。

 

愛猫がいつもと違う行動をしていたら、猫の耳の病気でみられる症状が現れていないかチェックしてみてください。また、外に出る猫はミミヒゼンダニに規制される機会が多いため、予防薬を定期的に使用するのがおすすめです。

 

※動物病院は自由診療のため、医療費が高額になる可能性があります。
ペット保険に加入していなければ、全額を自己負担で支払わなければなりません。
万が一の備えとしてペット保険に加入しておくと安心です。
また保険選びで迷われている方は、ペット保険の保険料や条件を一括比較できる「人気ペット保険おすすめランキング」もご覧ください。

獣医師平松先生
この記事の監修者 平松 育子
獣医師・ペットライター。山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月、有限会社ふくふく動物病院・取締役、院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かしペットに関する情報をお届けします。

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