犬の肥満細胞腫

愛犬の皮膚や皮下に腫瘤やイボができている場合には、肥満細胞腫と呼ばれる腫瘍の可能性も考えなくてはいけません。

肥満細胞腫は悪性度がさまざまであり、摘出した後、無治療で長く生きられる場合もあれば、全身に腫瘍が転移し余命が短くなる場合もあります。


そんな肥満細胞腫とは一体どのような病気なのでしょうか。
本記事では、犬の肥満細胞腫について、以下の点を中心に解説していきます。

・犬の肥満細胞腫について
・犬の肥満細胞腫の症状・重症度
・犬の肥満細胞腫の検査・治療方法

また治療に伴う処置別の費用目安もあわせて紹介しています。

本記事を読むと犬の肥満細胞腫について正しく理解でき、適切に対処することができるようになるのでぜひ最後までお読みください。

 

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目次

犬の肥満細胞腫について

犬の肥満細胞腫は、犬の皮膚や皮下組織、脾臓などの内臓にも発生することのある悪性腫瘍です。

 

体内で「ヒスタミン」を分泌する肥満細胞が悪性化したものであり、ヒスタミンを過剰に分泌することにより、皮膚の炎症などさまざまな症状を引き起こします。

 

悪性度が低いものであれば、治療により完治し健康な子と変わらず長生きすることができますが、悪性度が高いものに関しては、治療しても他の臓器に転移している場合があり、予後不良となることも多い腫瘍です。

肥満細胞腫の症状

犬の肥満細胞腫では、腫瘍細胞からヒスタミンが分泌されることにより、以下のようにさまざまな症状がみられます。

・浮腫
・皮膚の炎症、紅斑
・胃潰瘍
・低血圧によるショック症状

重度の場合、ショック症状が出ることもあるので注意が必要です。

また、刺激するとヒスタミンが分泌されて症状が出ることも多いので、なるべく腫瘤には触らないことを心がけましょう。

グレードごとの悪性度

犬の肥満細胞腫は、悪性度ごとに1〜3段階でグレード分類されています。

グレード1では悪性度が低いのですが、グレード3になるとさまざまな臓器やリンパ節への転移が認められるなど悪性度は高まっていきます。

ここからは、犬の肥満細胞腫のそれぞれのグレードについて解説していきます。

 

グレード1

犬の肥満細胞腫のグレード1は比較的悪性度が低いとされます。

皮膚の表面にできる1cm大の小さな腫瘤であることが多く、赤みを帯びた円形の外観をしています。

グレード1の肥満細胞腫は、完全摘出することにより完治し、健康な子と同様に長生きできる場合も多いです。

 

グレード2

犬の肥満細胞腫のグレード2は、中程度の悪性度とされるグレードです。

治療や余命もさまざまであり、臓器などに腫瘍が転移している場合には、手術が必要となります。

手術を行う際には、しっかりと腫瘍細胞を取り切れるように広い範囲の手術を行わなければならないので、傷口も大きくなります。

 

グレード3

犬の肥満細胞のグレード3は、最も悪性度が高く進行の早いグレードです。

リンパ節やさまざまな臓器に転移していることもあり、手術や化学療法などの治療を行っても予後が改善されないことも多いため注意が必要です。

犬の肥満細胞腫の原因と好発犬種

肥満細胞腫の好発犬種

犬の肥満細胞腫の原因は、明確にはわかっていませんが、犬種により発生頻度や悪性度が変化することが知られています。

 

肥満細胞腫になりやすい犬種は以下の通りです。

・パグ
・ボクサー
・フレンチ・ブルドッグ
・ラブラドール・レトリーバー
・コッカー・スパニエル

これらの犬種の中でも特にパグは、肥満細胞腫の好発犬種ですが、悪性度はグレード1が最も多く、手術により肥満細胞腫を取り除いてあげると健康な子と同じく長生きできます。

犬の肥満細胞腫の検査や診断法

犬の肥満細胞腫の検査は、以下のようなものが考えられます。

・細胞診検査
・血液検査、画像検査
・組織学的検査

それぞれについて解説していきます。

 

細胞診検査

しこりが体表にある場合には、針を刺して採取した細胞を顕微鏡で見る細胞診検査が行われます。

目視だけでは、肥満細胞腫の初期段階は、なかなか他のイボや腫瘤と見分けがつかないことが多いためです。

しかし、細胞診検査を行えば、確実ではないですが、腫瘤が肥満細胞腫かどうか判別できます。

 

血液検査、画像検査

血液検査やレントゲン、超音波検査などの画像検査を行い、臓器やリンパ節への転移の有無を確認することも重要です。

もし転移があった場合には、手術した後も、放射線治療や化学療法を行う必要があるかもしれません。

 

組織学的検査

犬の肥満細胞腫の確定診断を行うためには、腫瘤を手術で切除して組織を検査する組織学的検査が必要です。

専門の検査機関に摘出した組織を提出し、悪性度の判定を行うことで、適切な治療方法を選択できます。

また、同時に遺伝子検査を行い、分子標的薬が効くかどうかを見極めることも可能です。

犬の肥満細胞腫の治療法とは?

犬の肥満細胞腫の治療法

犬の肥満細胞腫の治療法は腫瘍の悪性度や大きさによってさまざまですが、主に以下のような治療方法が考えられます。

・外科手術
・放射線療法
・化学療法

それぞれについて解説していきます。

 

外科手術

転移がない肥満細胞腫では、外科手術によって腫瘍を取り切ることで、完治することが多くあります。

しかし、周りの組織に転移や浸潤している場合には、術後に再発する可能性があるので、手術では、腫瘍の周囲2〜3cmの正常組織まで切除しなければなりません。

広く切除しても腫瘍細胞の取り残しがある場合には、放射線療法や抗がん剤などの化学療法、また、再度外科手術が必要になるでしょう。

外科手術を成功させるためにも、腫瘤を見つけた場合には、すぐに病院を受診するようにしてください。

 

放射線療法

放射線治療は、外科手術でも腫瘍が取りきれず、まだ体に腫瘍細胞が残存している場合に行う治療であり、強力な放射線を体に浴びせることで、腫瘍細胞を死滅させます。

 

しかしデメリットとして、以下のような点も挙げられます。

・複数回の照射が必要
・放射線療法を行える施設が少ない
・高額な治療費がかかる
・正常細胞にも影響を及ぼし副作用が出る

うまく使用すると、肥満細胞腫の再発を防止できるので、術後に照射を行う必要がある場合はデメリットも考慮しながら、治療を行うか検討しましょう。

 

化学療法 

肥満細胞の悪性度が高い場合や、さまざまな臓器に転移がみられる場合には、抗がん剤などの化学療法を行うことがあります。

抗がん剤は、腫瘍細胞の細胞分裂を抑制し、増殖を阻害します。

しかし、正常細胞にも影響を与え、白血球減少や嘔吐、下痢などさまざまな副作用がみられることがあるので、注意が必要です。

 

ステロイド剤 

ステロイドは、炎症を抑える効果があるため、肥満細胞腫によって激しい炎症や腫脹、紅斑などが出ている場合などに対症療法として使用されます。

また、抗がん剤や分子標的薬などが使用できないほど、状態が悪化している場合や、副作用が心配な場合などにも使われることが多い薬です。

 

分子標的薬 

分子標的薬は、抗がん剤と比較して、ピンポイントで効果を発揮することができる薬です。

抗がん剤よりも副作用が軽く、通院の必要性がないのがメリットとして挙げられるでしょう。
しかし、全く効果がみられないこともありますので、治療反応を見極める必要があります。

肥満細胞腫の治療費用

犬の肥満細胞腫の治療法としては、以下の表の通りです。
治療費用例はあくまで目安となります。

診察・治療内容 治療費例
診察料 750円
血液検査 6,250円
細胞診検査 750円
レントゲン検査 4,000円
エコー検査 4,000円
静脈点滴 4,000円
手術 22,500円
麻酔代 11,250円
放射線治療 35,000円
組織学的検査 8750円
入院 7,500円(3日あたり)

上記の表に加えて、悪性度や犬の状態によっては、ステロイドや分子標的薬などの薬を用いることがあります。

また、手術を行う場合には、術後の入院が必要になる場合もあり治療費は高額になることもあるでしょう。

犬の肥満細胞腫は治る?余命はどれくらい?

肥満細胞の予後は、悪性度や腫瘤の大きさ、完全に腫瘤を切除できたかなどの条件によってさまざまです。

グレード1の場合は、外科手術後の2年生存率は100%といわれています。

しかし、グレード3になると手術をしても1年生存率は24%程度になります。

術後に化学療法や放射線療法を行うかどうかによっても生存率は変わってきますので、愛犬にあった治療方法を獣医師と相談するようにしてください。

犬の肥満細胞腫の予防法はある?

犬の肥満細胞腫の予防法

犬の肥満細胞腫の予防法はありませんが、定期的に愛犬の体を触って、小さなしこりや腫瘤ができていないかどうか確認してみてください。

特に肥満細胞腫の腫瘤は、赤く小さな円形の外観をしていることが多いので、注意深く体をチェックするようにしましょう。

まとめ

本記事では、犬の肥満細胞腫について、症状や検査、診断・治療方法などを解説してきました。

犬の肥満細胞腫のポイントは以下の通りです。

・犬の肥満細胞腫は皮膚にできることが多い悪性腫瘍
・症状は、皮膚の紅斑、胃潰瘍、ショック症状など
・悪性度によって、予後や治療法もさまざま
・愛犬の体をこまめにチェックすることが大切

肥満細胞腫は、悪性度が高いものだと完治が難しい場合もあります。

早期発見が大切になりますので、愛犬の体を日頃から触ってみて、異変がないかチェックすることを心がけましょう。

 

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獣医師入江悠先生
この記事の執筆者 入江 悠
宮崎大学農学部獣医学科では循環器内科を専攻。卒業後は、関西の動物病院に勤務する。 獣医師として、飼い主さんの悩みに寄り添うため、ペットに関するさまざまな情報を発信している。好きな犬種は柴犬。保有資格:獣医師国家資格

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