猫の脳腫瘍

猫にけいれんなどの神経症状がみられた際には、「脳腫瘍」の可能性も考えなければなりません。

脳腫瘍は、初期段階では無症状であることも多いのですが、進行するとさまざまな症状がみられ、死に至ることもある病気です。

本記事では、猫の脳腫瘍について以下の点を中心に解説します。

・猫の脳腫瘍とは

・猫の脳腫瘍の症状、治療

・猫の脳腫瘍の診断方法

・猫の脳腫瘍の余命

治療にかかる費用目安や脳腫瘍への対策もご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

 

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目次

猫の脳腫瘍について

脳腫瘍とは、頭の頭蓋骨を含めた頭蓋内にできる腫瘍の総称です。

症状としては、けいれんや旋回運動などの神経症状が多くみられます。

 

脳腫瘍は、腫瘍の形成パターンから「原発性」と「転移性」に区別されます。

それぞれについて詳しく解説します。

 

原発性

原発性脳腫瘍は、脳実質の神経細胞などが腫瘍化して発生したものです。

原発性脳腫瘍は具体的に以下のようなものが挙げられます。

・髄膜腫(ずいまくしゅ)

・星状膠細胞腫(せいじょうこうさいぼうしゅ)

・希突起膠細胞腫(きとっきこうさいぼうしゅ)

・上衣腫(じょういしゅ)

原発性脳腫瘍は、初期段階では検査しても異常を検出しづらいため、発見が遅れることも多々あります。

 

頭蓋内で大きくなると脳を圧迫しさまざまな神経症状がみられ、予後不良になる場合もあるため早期の治療が必要です。

 

転移性

転移性脳腫瘍は、肝臓や肺などのほかの臓器でできた腫瘍が血流などに乗り、脳に移動して形成されます。

 

転移性脳腫瘍の原因となるような腫瘍は以下の通りです。

・リンパ腫

・血管肉腫

・乳腺癌

・移行上皮癌

・悪性黒色種

転移性脳腫瘍では、ほかの臓器に原発となる腫瘍を発見できる場合がほとんどです。

脳以外にも肺や体中のリンパ節に転移している場合が多く、予後は悪い傾向にあります。

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猫の脳腫瘍でみられる症状

猫の脳腫瘍の症状

猫の脳腫瘍は、病気の初期段階と進行し重症化した段階でみられる症状が変化します。

脳腫瘍は、検査で見つけにくい病気であり、発見が遅れることも多くなっています。

 

初期段階で動物病院を受診できるように、脳腫瘍でみられる症状について詳しく理解しておきましょう。

 

初期症状

脳腫瘍の初期段階でみられる症状は以下の通りです。

・食欲低下

・元気消失

・行動、鳴き声の変化

症状は、病気の進行具合や腫瘍の大きさによってさまざまです。

無症状のこともあれば、食欲低下や元気消失がみられることもあります。

また、性格や行動なども変化することが多いため、飼い主さまにとっては、少し異変を感じることもあるでしょう。

こうした異変を感じた際には、動物病院を受診して検査をしてもらうと病気の早期発見に繋がります。普段から、愛猫の行動パターンや性格の変化などをしっかりと確認しておきましょう。

 

末期症状

脳腫瘍が重症化して、末期症状になると以下のような症状がみられます。

・四肢の麻痺

・眼振

・けいれん

・斜頸

・意識レベルの低下

四肢の麻痺でうまく歩けなかったり、普段は乗れていた場所に飛び乗れなかったりする場合もあります。進行するとけいれん発作を頻繁に起こし、意識レベルの低下により昏睡状態に陥ります。

 

無治療の場合には、死に至ることも多いため、神経症状がみられたら早急に動物病院を受診するようにしてください。

脳腫瘍では猫の異常行動もみられる?

猫の脳腫瘍では、腫瘍により脳が圧迫されることにより「異常行動」がみられる場合があります。

 

異常行動の具体例は以下の通りです。

・旋回運動をする

・頻繁に鳴く

・失禁する

・匂いに鈍感になる

・普段近づかない場所に近づく

脳腫瘍などの病気のサインの可能性があるため、こうした症状がみられた際には動物病院を受診するようにしましょう。

猫の脳腫瘍の原因となるのは?

猫の脳腫瘍の原因は、脳の神経組織の突然変異などが考えられますが、明確にはわかっていません。原因がわかっていないため、予防することは困難です。

愛猫に異変がみられたら早めに検査をして早期発見・治療を行えるようにしましょう。

脳腫瘍になりやすい猫

猫の脳腫瘍の好発猫種は報告されていませんが、若齢猫よりも高齢猫での発生率が高くなります。脳腫瘍と診断された猫の平均年齢は13.3歳といわれています。

 

また、転移性脳腫瘍の原因となる乳腺癌は未避妊メスに発生しやすかったり、リンパ腫は猫白血病ウイルスを持っている猫に好発したりします。

猫の脳腫瘍の検査や診断方法

猫の脳腫瘍の検査

猫の脳腫瘍の検査方法は、以下の通りです。

・身体検査(神経学的検査)

・血液検査(FIV/FeLV検査)

・画像検査(レントゲン、エコー検査)

・CT、MRI検査

・脳脊髄液検査

脳腫瘍を診断するためには、多くの検査が必要です。

 

それぞれについて解説していきます。

 

身体検査(神経学的検査)

身体検査では、足の麻痺や眼振の有無などの症状を観察し、神経学的検査を行います。

 

足の麻痺や眼振などは、血栓症や前庭疾患でも認められるため注意が必要です。

足に痛みがないか、外耳炎など前庭疾患を引き起こす原因はないか、身体検査でチェックしていきます。

 

また触診や視診により、体表腫瘍や鼻腔内腫瘍がないかどうかを確認します。

体表や鼻腔内に腫瘍がある場合には、転移性脳腫瘍の可能性も考えなければいけません。

 

血液検査(FIV/FeLV検査)

血液検査では、腎臓や肝臓に異常がないかどうか確認します。

 

腎不全による尿毒症、肝不全による肝性脳症によって神経症状がみられる場合があるため、こうした疾患が隠れていないかチェックが必要です。

 

また、FIV(猫免疫不全ウイルス)やFeLV(猫白血病ウイルス)の感染の有無をチェックすることも大切です。特にFeLVの感染は、リンパ腫を引き起こし脳腫瘍の原因になります。

 

画像検査(レントゲン、エコー検査)

画像検査では、レントゲン検査、エコー検査を行い臓器に腫瘍がないかチェックします。

転移性脳腫瘍の原因となる血管肉腫や移行上皮癌などを見つけるために重要な検査です。

 

また、レントゲンで肺に転移した腫瘍がないかどうかを確認します。

 

CT・MRI検査

身体検査、血液検査、画像検査を行い、明らかな異常が認められない場合には、CTやMRI検査を行います。

 

特にMRI検査は、脳腫瘍の診断に有用です。

脳炎と脳腫瘍の鑑別も検査所見から判断可能です。

 

腫瘍の大きさや発生部位を特定することもできるため治療方針を立てやすくなるでしょう。

 

しかし、麻酔が必要な検査になるため、愛猫の状態が悪いとリスクが大きくなります。

かかりつけの獣医師と相談して検査を行うかどうか判断しましょう。

 

脳脊髄液検査

脳脊髄液検査は、脳腫瘍の中でもリンパ腫を検出するために行われます。

 

リンパ腫の場合には、脳脊髄液中に腫瘍細胞が検出されることがあります。

 

リンパ腫の脳転移の確定診断を行うためにも重要な検査です。

猫の脳腫瘍の治療法とは?

猫の脳腫瘍の治療方法は、以下の通りです。

・外科的切除

・放射線療法

・化学療法

・投薬

・食事療法

それぞれについて解説していきます。

 

外科的切除

外科的切除で脳腫瘍を摘出します。

特に脳腫瘍の中でも髄膜腫の治療方法として選択されます。

猫の髄膜腫は、ほとんどが良性で摘出も容易な場合が多いためです。

そのほか、神経症状の緩和目的や減容積のためにも手術を行う場合があります。

転移性脳腫瘍では手術しても再発したり、ほかの臓器に転移して状態が悪化したりする場合も考えられるため、手術を行うかどうか獣医師と相談して決める必要があるでしょう。

 

放射線療法

放射線療法は、脳腫瘍に放射線を照射して腫瘍細胞の増殖を防ぎます。

 

原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍の両方で選択される治療方法であり、うまく治療効果が出れば、神経症状を緩和できます。

 

また、外科的治療をした後に放射線療法を行う補助療法も有用です。
手術で切除できずに残った腫瘍細胞の増殖を防ぐ効果があります。

放射線療法では、正常細胞も少なからずダメージを受けるため、副作用のリスクがあることに注意が必要です。

 

化学療法(抗がん剤)

化学療法(抗がん剤)は、髄膜腫などの特定の脳腫瘍に効果が示されています。
しかし、脳には抗がん剤を通しづらくする血液脳関門と呼ばれる仕組みがあるため、脳腫瘍への効果が認められない場合もあります。

 

また抗がん剤には副作用があるため、化学療法を行うかどうか、かかりつけの獣医師と相談する必要があるでしょう。

 

投薬

脳腫瘍の緩和療法として、ステロイドや脳圧低下のための利尿剤が用いられます。
また、けいれんの症状がみられている場合には、抗てんかん薬を使用する場合もあるでしょう。

 

しかし、投薬はあくまで対症療法であり、効果は一時的なものがほとんどです。
脳腫瘍を根本的に治療したい場合には、外科的切除や放射線療法が必要になるでしょう。

 

食事療法

食事療法は、あくまで支持療法として用いられます。
腫瘍細胞は、炭水化物や糖質を栄養源として成長していくため、食事に含まれる炭水化物・糖質を制限します。

 

カロリー不足で栄養失調になるおそれもあるため、自己判断で食事を変更するのは控え、獣医師が処方する療法食を食べさせるようにしてください。

高齢猫が全身麻酔をするリスク

高齢猫の全身麻酔にはリスクが伴います。

高齢猫は、腎不全や肝臓、心臓に何かしら疾患を抱えている割合が多く、麻酔により状態が悪化する可能性があるからです。

 

麻酔前の血液検査で異常がなくても、安心はできません。

 

MRI検査など麻酔が必要な検査を行う際には、事前の検査をしっかりと行うことはもちろん、麻酔後に体調を崩すリスクがあることに注意しましょう。

脳腫瘍の治療費用

猫の脳腫瘍の治療費用は以下の通りです。

 

猫の状態や腫瘍の大きさなどにより、検査や治療方針は異なります。

治療費用例はあくまで目安として考えてください。

診察・治療内容

治療費例

診察料

750円

血液検査

6,250円

FIV/FeLV検査

6,500円

レントゲン検査

4,000円

エコー検査

4,000円

CT検査

35,000円

MRI検査

45,000円

脳脊髄液検査

15,000円

静脈点滴

4,000円

化学療法(抗がん剤)

50,000〜100,000円/月

放射線療法

200,000円

ステロイド剤

1,000円/週

抗てんかん薬

3,000〜5,000円/月

外科手術

500,000円

麻酔代

11,250円

入院

2,500円

猫の脳腫瘍の診断は、さまざまな検査で除外診断を行う必要があります。

麻酔が必要なMRI検査や放射線療法を行うと、ほかの疾患よりも治療費は高くなります。

猫の脳腫瘍は完治する?

猫の脳腫瘍は、完治させることが難しい病気です。

 

外科的手術により腫瘍の摘出や、放射線療法にて腫瘍細胞を退縮させることにより、ある程度脳腫瘍の進行を抑えられます。

 

しかし、再発や腫瘍細胞の増殖を完全に抑えることは難しく、予後はあまり良くない傾向にあります。

脳腫瘍になった猫の余命や最期

脳腫瘍になった猫の余命

猫の脳腫瘍の余命は腫瘍の種類と進行状態、治療方法によりさまざまです。
基本的に投薬や食事療法などの支持療法では、予後不良であり、余命は1〜2ヶ月です。

 

猫の髄膜腫を外科的切除により治療した場合には、余命は18〜24ヶ月程度です。
選択する治療方法により余命は変化します。
かかりつけの獣医師とよく相談し治療方針を決めるようにしましょう。

 

また、飼い主さまができる緩和ケアとしては、症状に対する対症療法が挙げられます。
脳腫瘍の最期には、けいれん発作が頻発し意識レベルが低下する場合が多くなります。

けいれん止めの緊急薬を処方してもらい、症状がみられた際にすぐに止められるように準備しておくのがおすすめです。

脳腫瘍の予防法はある?

猫の脳腫瘍は、原因が明確でないため、予防することは困難です。

異変を早期発見し動物病院に早めに連れていきましょう。

 

また、転移性脳腫瘍の原因となる乳腺癌やリンパ腫などを予防するために避妊手術や猫白血病ウイルスの予防を行うことも大切です。

まとめ

本記事では、猫の脳腫瘍の症状や原因、治療法について解説しました。

重要なポイントをおさらいしておきましょう。

・猫の脳腫瘍は、原発性と転移性の2つがある

・初期症状は、食欲低下、元気消失や異常行動

・末期症状は、けいれん発作、意識レベルの低下

・外科的切除や放射線療法が主な治療方法

・投薬や食事管理だけでは、予後は改善しない

・予防は難しいため、早期発見、治療が大切

猫の脳腫瘍は、初期段階では無症状であることも多く、見逃されやすい疾患です。

予防は難しいため、少しの異変がみられた際でも動物病院を受診することをおすすめします。

 

※動物病院は自由診療のため、医療費が高額になる可能性があります。
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獣医師入江悠先生
この記事の執筆者 入江 悠
宮崎大学農学部獣医学科では循環器内科を専攻。卒業後は、関西の動物病院に勤務する。 獣医師として、飼い主さんの悩みに寄り添うため、ペットに関するさまざまな情報を発信している。好きな犬種は柴犬。保有資格:獣医師国家資格

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