僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)とは、犬が最も発症しやすい心臓病です。そこで、僧帽弁閉鎖不全症の症状・治療・予防法について、犬を飼い始めた方にもわかりやすく解説します。
僧帽弁閉鎖不全症は、発症から投薬治療を始めても1年以内に50%が亡くなるといわれている病気です。
犬との楽しい日々が続くように、発見が難しい僧帽弁閉鎖不全症の症状をステージごとに解説します。僧帽弁閉鎖不全症を早い段階で発見して余命を伸ばすために、ぜひ最後まで読んでください。
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犬の僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜん)とは?
僧帽弁閉鎖不全(そうぼうべんへいさふぜん)とは、心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁が変性し、閉鎖不全を起こして血液が逆流する病気です。さらに、僧帽弁閉鎖不全が進行すると肺水腫を引き起こします。
僧帽弁閉鎖不全は、心不全や肺水腫を繰り返すうちに、体力が限界を迎える病気です。少しでも長く犬との楽しい時間を共有するために、ステージが早い段階で適切な治療と自宅ケアをしましょう。
まずは心臓の構造と役割を知ろう!
心臓を構成している部位は、右心房・右心室・左心房・左心室の4つです。心房は血液を受け取り、心室は血液を送り出す役割を持っています。
心臓は汚れた血液を回収して肺に送り、肺で酸素を取り込んだあと、きれいな血液を全身へ送る循環システムの要です。血液の循環は複雑で、大静脈に集まった全身の血液は、右心房から右心室を経由して肺で酸素を取り込んだあと、左心房から左心室を経て大動脈から再び全身に送られます。
大切なのは、血液を一方向に流し続けることです。逆流すると、新鮮な酸素もきれいな血液も体を巡りません。しかし、複雑な血液の循環を担う心臓のシステムはたいへん良くできており、左心房と左心室の間には、血液の逆流を防ぐ僧帽弁が備わっています。
僧帽弁閉鎖不全症が起こる原因
犬で最も発症率が高い心臓病の僧帽弁閉鎖不全は、ステージに応じて僧帽弁に変異が生じる心臓病です。
主な原因として、粘液様変性と僧帽弁を支える腱索(けんさく)の伸びや断裂が挙げられます。粘液様変性とは、細胞が産出する多量の粘液により、弁尖が変性して左心房側に逸脱する病気です。
また、腱索が伸びて僧帽弁の閉じる位置が乱れるほか、腱索の断裂によって僧帽弁が閉じなくなるケースもあります。また、歯周病もかかわっているとされているため、定期的に口内のチェックとケアをしてあげましょう。
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犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージ別症状
犬の僧帽弁閉鎖不全症の症状によって分けられる、5つのステージについてわかりやすく解説します。ステージは、症状の軽いステージAから始まり、ステージB1・ステージB2・ステージC・ステージDです。ここからはステージごとに解説します。
ステージA
▼ステージAの臨床症状
・心音に雑音はない
・元気がなくなってきた
・歯周病による口臭がある
・散歩の距離が短くなった
ステージAは目立つ症状がほとんどなく、健康診断で偶然見つかるケースが多い初期段階のステージです。愛犬に元気がなくなってきた、散歩の距離が短くなったといった症状は「なんとなく普段と違う気がする」「疲れているのかな」と感じる程度でしょう。しかし、歯周病による口臭は、日ごろのケアで見つけやすいポイントです。
ステージB1
▼ステージB1の臨床症状
・呼吸が常に速い
・手足が冷えている
・微小の心雑音がある
・心拍が普段よりも速い
ステージB1までに、しっかりした治療をしていると寿命が伸びます。ステージB2への進行を遅らせるには、早期発見と治療が重要なポイントです。しかし、自宅ケアでは判断が難しいため、定期的な健康診断で体調をチェックしてあげましょう。自宅ケアでわかりやすい症状は、手足の冷えです。
ステージB2
▼ステージB2の臨床症状
・軽い心雑音がある
・息切れをしやすい
・痰がからむような咳をする
・感情が高ぶると舌が青色、または紫色になる
ステージB2からは、散歩や運動ですぐに息切れを起こす・興奮するとチアノーゼ(舌が紫色になる)になる・ゼーゼーといった痰がからむような咳をする、などの症状が現れます。ステージB2からは、食事療法やサプリメントだけで心臓をサポートできません。速やかに動物病院を訪ねてください。
ステージC
▼ステージCの臨床症状
・心雑音がある
・激しく咳が出る
・呼吸が非常に速い
・感情が高ぶると失神する
激しく咳をする・呼吸が非常に速い・興奮すると失神するなどは、自宅でも気が付きやすい変化です。ステージCは、内服薬による助けが必要なので、症状がある場合は速やかに獣医師の診断を受けましょう。ステージCでは、強心薬を投与して心臓の動きをサポートします。
ステージD
▼ステージDの臨床症状
・心雑音がある
・激しい咳が続く
・異常な速さで呼吸をする
・呼吸が苦しくてジッとするときがある
・激しい咳をしたときや興奮状態のときに失神する
ステージDは、僧帽弁閉鎖不全症の末期症状が起きている状態です。重症化した場合は、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできないために肺水腫を引き起こし、さらに呼吸困難やチアノーゼ(舌が紫色になる)などの症状も引き起こします。最悪の場合は命をおとすこともあります。
進行すると肺水腫を引き起こすおそれがある
肺水腫とは、肺に水がたまる重篤な病気です。僧帽弁閉鎖不全症を患うと、行き場を失った血液が逆流して肺の毛細血管に溜まりはじめます。限界を越えると、血液の液体成分が少しずつ染み出して肺の中にたまるため、緊急性の高い病気です。
肺水腫の症状として、苦しそうな呼吸をする・急にふらつく、失神・眠れない・チアノーゼが続くなどの症状が挙げられます。呼吸不全から命をおとすケースもあるため、症状が現れている場合は早急に獣医師の診断を受けましょう。
僧帽弁閉鎖不全症から肺水腫を発症すると、あらゆる治療を施しても余命は6〜9か月であるといわれています。症状が現れた場合は、すでに深刻な状態なので緊急受診が必要です。ただし、心臓手術を受けると余命を1〜2年延長できる場合があります。
僧帽弁閉鎖不全症は人気の小型犬がなりやすい
僧帽弁閉鎖不全は小型犬に多くみられ、さらに高齢になるほど発症率が高くなる心臓病です。また、小型犬の場合は、遺伝的な原因で発症するケースもあります。
▼僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種
・チワワ
・シーズー
・マルチーズ
・スパニエル
・トイ・プードル
・ポメラニアン
・ヨークシャー・テリア
・ミニチュア・ダックスフント
・キャバリア・ヨークシャーテリア
・キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
心臓病は、ペットとして飼われている犬の死因の中で、がんに続き2番目に多い病気です。特に、小型犬のチワワ、マルチーズ、ポメラニアン、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、6歳を超えると発症率が急激に高くなります。
また、愛くるしいキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、若くても遺伝的に僧帽弁閉鎖不全症を発症しやすい犬種です。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断・検査方法について
犬の僧帽弁閉鎖不全症は、さまざまな検査を行い総合的に診断を行っていきます。
検査方法としては、以下のような検査が考えられます。
■犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断・検査方法
・聴診
・レントゲン検査
・心臓エコー検査
それぞれについて解説していきます。
聴診
犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断では、聴診が非常に役立ちます。
聴診は聴診器さえあれば、診察室でも行うことができる簡単な検査です。
心臓の雑音の有無、雑音が聞こえる場所などにより心臓病を予測することができます。
また、心臓の音だけでなく肺音や呼吸音も聴診することができます。
僧帽弁閉鎖不全症は進行すると、肺水腫と呼ばれる呼吸器疾患を引き起こしますが、聴診によって肺水腫の有無も大まかに判断できます。
聴診は、犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断には欠かせない検査です。
飼い主さまは普段から動物病院を受診した際には、聴診してもらうようにしてください。
レントゲン検査
レントゲン検査は、心臓の大きさと肺水腫の有無を判断するために行います。
僧帽弁閉鎖不全症では、心臓の左心房と呼ばれる部分が拡大してきます。レントゲン検査では、この左心房の拡大により気管が圧迫されている状態かどうかを確認します。
また、レントゲン検査では、肺水腫の有無もすばやく判断できます。
肺水腫が起こっている場合には、治療方針も変わってくるため、レントゲン検査は実施する場合が多いでしょう。肺水腫の症状が重い場合は、体勢を変えることがきっかけになり呼吸停止を起こす場合があります。レントゲン検査の実施は慎重に判断する必要があります。
心臓エコー検査
僧帽弁閉鎖不全症で最もよく行われる検査は、心臓エコー検査です。
心臓エコー検査では、心臓の左心房と左心室を分けている僧帽弁の形や、血液が逆流しているかどうかを確認します。
そのほかにも重症度の判断として、
・左心房、左心室の大きさ
・左心房から左心室に流れ込む血流の速さ
・逆流する血液の速さ
を確認して重症度の評価を行っていきます。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断や検査では、心臓エコー検査がよく用いられますが、レントゲン検査や聴診を行わないと肺水腫などのほかの併発疾患を見逃す可能性もありますので注意が必要です。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の治療方法と治療費について
犬の僧帽弁閉鎖不全症の治療法は、病気の進行具合や肺水腫の有無によっても変わってきます。
治療法は以下のとおりです。
■犬の僧帽弁閉鎖不全症の治療法
・内科治療
・入院・酸素吸入
・外科手術
それぞれの治療法について、治療費を含め解説していきます。
内科治療
内科治療は、僧帽弁閉鎖不全症の最も一般的な治療方法です。
使われる薬としては以下のようなものが考えられます。
■僧帽弁閉鎖不全症の治療薬
・強心薬
・血管拡張薬
・利尿剤
それぞれどういった場合に使っていくのか解説していきます。
強心薬
強心薬は心臓の収縮力を上昇させて、血液を全身に送り出す手助けをする薬です。
僧帽弁閉鎖不全症では、血液の逆流が起こり、全身に送り出される血液量が減少するため、強心薬を投与して心臓の負担を軽減させます。
血管拡張薬
血管拡張薬は、全身の血管を広げることで血圧を下げ、心臓が血液を全身に送り出す手助けを行う薬です。
ただし、僧帽弁閉鎖不全症以外の心臓病では血圧が下がりすぎて、低血圧になるおそれがあるので、しっかり検査を行ってそのほかの心臓病がないかどうか確認してから使用する必要があります。
利尿剤
利尿剤は、肺水腫になっている場合や何度も肺水腫を繰り返している場合に用いられることが多く、体の水分をおしっことして排泄させる薬です。
犬が何度も肺水腫になっているケースでは、上記2つの心臓薬に加えて、利尿剤も毎日飲まなければいけない場合があります。
利尿剤の問題点としては、腎臓に負担をかけてしまうため、腎臓の機能が低下し腎不全になってしまうという点です。
そのため、利尿剤を日常的に使っている子に対しては、定期的な血液検査を行い腎機能をチェックする必要があります。
僧帽弁閉鎖不全症の内科治療では、生涯に渡っての投薬が必要です。
愛犬の体重や心臓薬の数や利尿剤の有無によっても治療費は変動しますが、薬代のみで1か月あたり1万円~2万円程度になることが多いでしょう。
入院・酸素吸入
愛犬が肺水腫になっており、呼吸困難になっている場合には、入院により酸素吸入をする必要があります。
この状態の愛犬は、非常に危険で命を落とすことも十分にあるので注意が必要です。
入院は、約3〜5日が平均的ですが、重症度によってさまざまです。
入院費は一日あたり1〜2万円程度になるので、5日ほど入院した場合には10万程度の費用がかかると考えておきましょう。
外科手術
犬の僧帽弁閉鎖不全症は外科手術によって治療することができます。
愛犬の病気を完治させたい場合や、毎日薬を飲ませたくない、急変のリスクに怯えながら生活したくないと考えている飼い主さまは、外科手術を行ってあげるのも有効な手段です。
手術に成功すれば、薬を飲ませる必要がなくなり、肺水腫で命を落とす危険性に怯える必要もなくなるかもしれません。
しかし、注意点としては、以下のようなものが考えられます。
・手術可能な施設が少ない
・手術費が高額
・手術しても改善しない場合がある
・手術中や術後の死亡リスク
心臓の外科手術を行える病院は、日本でもまだまだ少なく、手術の成功確率や実績についても病院によってさまざまです。
また、費用は診察料や術前、術後の検査・入院、などを含めると合計で220万円程度と高額になります。
高額の費用を払ったにもかかわらず、改善しない場合や死亡してしまうリスクもあるので、飼い主さまは、外科手術を考えている場合は、しっかりと手術可能な獣医師の話を聞いてから決断してあげるようにしましょう。
予防法や注意すべきことについて
僧帽弁閉鎖不全症を完全に予防する方法はありません。しかし、症状の発現や進行を遅らせることはできます。僧帽弁閉鎖不全症の予防法を生活に取り入れて、発症のリスクを下げましょう。
定期的な健康診断を受けて早期発見に努める
僧帽弁閉鎖不全症は、健康診断で偶然発見されるケースの多い心臓病です。そのため、健康診断を受けなくとも異常だとわかるような症状が現れた場合は、すでに病気が進んでいるため余命は短く、9か月後の生存率は50%しかありません。
日本では、僧帽弁閉鎖不全症から肺水腫になるケースが多いため、中年齢以降は定期的な健康診断を受けて、潜んでいる症状や病気を早い段階で発見するのが重要です。
適切な食事と運動をして肥満にさせない
犬が人の食べ物をジッと見ていても、塩分・脂肪分・カロリーの高い人間の食べ物を与えるのは厳禁です。犬に人の食べ物を与えると、塩分の過剰摂取や肥満につながります。過剰な塩分摂取や肥満は心臓に負担をかけるため、犬用の食べ物で健康を管理してあげてください。
また、健康な犬には、散歩や外遊びで運動をさせてあげましょう。適切な食事と運動は、飼い主のできる健康管理の基本です。
散歩の様子を観察して犬の変化をキャッチする
散歩は犬の健康をチェックする良い機会です。犬の献身的な飼い主への愛情が、ときとして体に負担をかけます。特に、少し元気のなかった犬が散歩で嬉しそうにしているときは、犬の様子をしっかり観察しましょう。
少し体調が悪くても、飼い主が喜んでいる姿を見た犬は散歩に同行します。散歩中は、息が荒くないか・ふらつかないかなど、犬の様子を観察して異常を見逃さないように心がけてください。
よく水を飲むのは僧帽弁閉鎖不全症のサイン
犬がよく水を飲むようになったら、僧帽弁閉鎖不全症の可能性があります。水をよく飲むのは暑さによる場合もありますが、心臓病と腎臓には密接な関係があるため獣医師の診断を受けてみてください。
腎臓は血液中の老廃物を尿に変える臓器ですが、心不全で血液の流れが鈍ると尿を作れません。そこで、脳が血液を作るために必要な水分を摂るように命令を発するため、水を飲む量が増えます。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は初期の症状を見逃しやすく、症状がわかるようになったときはすでに病気が進行しています。僧帽弁閉鎖不全症は、早期に手術をすると治る可能性がある心臓病です。
しかし、末期症状の場合は、投薬で進行を遅らせることしかできません。愛犬の余命が短くなっていく心の痛みに耐えながら、最後を見届ける心の準備も必要になります。
僧帽弁閉鎖不全症は、健康診断で偶然発見されるケースが多い心臓病です。定期的な健康診断を受け、体の変化を早い段階で見つけてあげましょう。
※動物病院は自由診療のため、医療費が高額になる可能性があります。
ペット保険に加入していなければ、全額を自己負担で支払わなければなりません。
万が一の備えとしてペット保険に加入しておくと安心です。
また保険選びで迷われている方は、ペット保険の保険料や条件を一括比較できる「人気ペット保険おすすめランキング」もご覧ください。
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